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配合の妙
すでに御存じのように漢方薬は種々の生薬を重ね合わせることによって構成されています。ごく一部、単一生薬からなる処方もありますが、これも生薬に含まれる成分が複数であることを考えれば混合物であることにかわりはありません。

遠く我々の祖先は身の回りにある天然物を食品として摂取することから始め、そのなかに具合の悪い時に役立つ物を経験的に学んでゆきました。そこから出発し今から数千年も前、それらを薬として認識するに至ったわけです。経験から割り出される法則というものは何でも同じですが、とても長い時間をかけて自分(人類)のものにしていったのです。そこにはEBMという言葉は無いにしろ、効果のあるものと無いものは厳密に区別されていったはずです。

このような状態がしばらく(と言っても、気の遠くなるような時間ですが)続き、そこで新たなことに気付くことになります。それは2つの生薬を同時に使うと、より効果が強くなる、または副作用が少なくなる、などといった事です。無論、その反対に効果が弱くなったり、副作用が現れたりしたことも起こったのです。そのような新たな経験を、またもや気の遠くなるような時間をかけて先人達は蓄積してゆきました。生薬として利用されるものの数だけでもかなりのものですから、これらのかけ合わせといったら時間がかかるのも無理はありません。なにせ、そこに「理屈」はなく、ただただ try and errorを繰り返したわけですから。しかしながら、理屈がなかったということは、『事実だけが伝えられた』ということでもあります。こうして、将来「薬」とよばれるに至る配合が形成されていったのです。

それぞれの生薬にどのような薬効があるのか、それを詳らかにした書が「薬徴」であり、学問が「本草学」です。しかもただ生薬を使うのではなく、皮の部分だけを火に炙ってから煎じたほうが効果があるとか、一回天日に干してからの方がよいとか、さらに酒で蒸してからのほうがもっと良いとか、、。ほんとうによくここまで考えたなと感心させられるほどに研究されたのです。こうした作業を経て、そして組み合わされる事によって「身の回りの天然物」は「処方」と呼ばれるにふさわしいものになっていったのです。そして、複合される生薬の品目が多くなり徐々に処方が複雑化するにつれ、それらの学問も発達し、その効果の検証や運用のためにルールが必要になっていったのです。これが漢方医学のルーツです。

我々が知る限り、最古の系統だった医学書として現代に伝えられているのが『傷寒論』です。張 仲景という人物によって今から約1800年前に書かれたとされています。ここには理路整然と、「生薬」と「処方」と「それを用いるべき対象」とが説かれています。一つの生薬の働き、それを含む処方の効能、処方に含まれる他の生薬とのコンビネーション。みごとと言うしかない、ゆるぎない法則ー全ては経験に裏打ちされたーの基に解説されています。

生薬どうしを混合することによって新たな効果が経験された、と前述しましたが、漢方処方にはこれらの経験がふんだんに盛り込まれています。時に意外とも思える効果が引き出されることを知るたびに、「我々の予測」は決して「経験」を超える事はないのだと思い知らされます。張 仲景が著した傷寒論、その第一番目に登場する処方が桂枝湯です。構成している生薬は桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草の五味です。一般的にはカゼをひいたりしたときに頻用されます。処方の分類で言えば「表寒証」向けの処方です。しかし、このなかの芍薬だけを1.5倍に増量し、他の生薬はそのままにすると、その処方名は桂枝加芍薬湯にかわります。これは「裏寒証」向けの処方です。どちらも現代の我々がエキス剤として慣れ親しんでいる処方ですし、適応病名をみたらなんの関係も無さそうな両者ですが、実は兄弟のような処方であることがわかりますね。このほかにも、桂枝湯のなかの桂枝だけを増量すれば桂枝加桂湯になったり、膠飴という飴を加えただけで小建中湯と呼ばれるようになったりと、漢方処方は本当に微妙な法則(経験則)で創られているのです。「法則」からして「きっとこういう効果が得られるはずだ」と考えられ、創作された処方も数知れずあったのです。しかし、そのたびに検証され淘汰され本当に我々にとって有用である処方だけが今日まで継承されてきたのです。ですから今日我々が用いる事のできる処方は言ってみればエリート処方達なのですね。ちなみに新たな処方を考案する場合、「処方をつくる」とは言わずに「処方を編む」と表現します。「編む」、その言葉にこめられた意味はおわかりいただけると思います。そして、この努力と法則は「絵に書いた餅」ではなく、「検証され続けた事実」であることを強調したいと思います。

配合の妙、それを知ることは我々の体やその反応の複雑さを知ることであり、また漢方治療の法則に込められた「いかに治すか」を考えるヒントにつながると思います。決して過去だけのものではなく、先人が残してくれた知恵はこれから先我々が行ってゆく、また受ける事となる治療の道しるべとして貴重な財産であるはずです。なぜなら、我々がまだ理解していなかったり、気付かずにいる大切な事柄を先人の経験は教えようとしてくれているはずだからです。

 

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